
宅録ナレーションやボイスサンプルを制作していると、もっときれいな音にしたいと考えることがあります。
そこで、マイクを買い替えたり、オーディオインターフェースを新しくしたり、防音や吸音を考えたり、RXなどのノイズ除去ソフトを導入したりする方も多いでしょう。
もちろん、宅録の機材や録音環境を整えることは大切です。
しかし、宅録の音を良くするために、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
それは、整音するミキサーが、実際に何を聴いて、何を判断しているのかということです。
宅録の整音は、単にノイズを消して、音をきれいにする作業ではありません。
今回は、宅録する側から見た整音と、ミキサーがどのような考え方で音を処理しているのかについて解説します。
宅録の整音では、どんな処理をするのか?
宅録されたナレーションやセリフの整音では、さまざまな処理を行います。
代表的なものとして、
- リップノイズの除去
- ポップノイズの処理
- ブレスの調整
- 空調音やPCファンなどの環境ノイズの除去
- 不要なノイズの処理
- コンプレッサーによるダイナミクス調整
- EQによる音質調整
- 音量のばらつきの調整
などがあります。
例えば、マイクに近づいて話したときに発生しやすいポップノイズや、口の中の音であるリップノイズは、録音後に編集・整音することがあります。
また、声の大きいところと小さいところの差を調整するために、コンプレッサーを使用することもあります。
EQでは、声の帯域バランスを確認し、必要に応じて低域や中域、高域などを調整します。
このように見ると、整音にはさまざまな技術が必要だということが分かります。
ただし、ここで一つ注意したいことがあります。
処理できるから、強く処理すればいいというわけではありません。
ノイズは消せばいいというものではない
例えば、リップノイズを除去するためにRXなどのノイズ除去ツールを使用することがあります。
確かに、適切に処理すれば非常に便利なツールです。
ところが、ノイズを消すことに集中しすぎると、本来残っていなければならない声の成分まで削ってしまうことがあります。
以前、宅録音声を聴いていて、こんなことがありました。
「特別価格」という言葉が、ノイズ除去を強く掛けたことで、子音が欠けてしまい「おくべつあかく」のように聞こえてしまう。
これは極端な例に感じるかもしれません。
しかし、考え方としては非常に重要です。
ノイズ除去の目的は、ノイズをゼロにすることではありません。
本来の目的は、必要な声を残しながら、不要な音を適切に抑えることです。
ノイズが少なくなったとしても、声そのものが不自然になってしまえば、整音としては成功とは言えません。
コンプレッサーも強く掛ければ良いわけではない
コンプレッサーも宅録ではよく使われる処理です。
音量差を整えることで、声を安定して聞かせたり、声の輪郭を整えたりすることができます。
しかし、コンプレッサーを強く掛けすぎると、声のダイナミクスが潰れてしまうことがあります。
本来持っている声質やニュアンスが失われ、声が均一になりすぎてしまう。
結果として、かえって音質の悪さや不自然さが目立つこともあります。
特にボイスサンプルでは、この問題を意識しておきたいところです。
ナレーターの声には、
- 声量のコントロール
- マイクとの距離感
- 抑揚
- フレーズごとの強弱
- 言葉のニュアンス
など、本人の技術によって生まれる自然なダイナミクスがあります。
それをコンプレッサーで強く潰してしまうと、本来の表現が見えにくくなることがあります。
つまり、
安定して聞こえる声と良い声は、必ずしも同じではありません。
整音で大切なのは何を処理するかだけではない
ここが、宅録する方に一番理解してほしいところです。
整音というと、
リップノイズを消す
ノイズを消す
コンプレッサーを掛ける
EQをする
という処理することに意識が向きがちです。
しかし、ミキサーが考えているのは、それだけではありません。
どこまで処理するのか?
そして、処理した結果、声はどう聞こえているのか?です。
例えばブレス。
ナレーションによっては、ブレスを完全に消す必要がない場合もあります。
完全に無音にするよりも、自然に聞こえる程度まで下げた方が、かえって人間らしいナレーションになることがあります。
リップノイズも同じです。
目立つものは処理する。
しかし、必要以上に処理して声の子音まで失わせない。
つまり整音とは、不要なものをすべて消す作業ではなく、必要なものと不要なものを判断する作業でもあるのです。
宅録の機材やマイクより先に考えてほしいこと
宅録を始めると、どうしても機材が気になります。
どのマイクがいいのか?
どのオーディオインターフェースがいいのか?
もっと高価な機材にした方がいいのか?
もちろん機材は重要です。
しかし、高価な機材を使えば、それだけで整音しやすい音になるわけではありません。
マイクとの距離や角度、声の出し方、録音レベル、部屋の響き、周囲の環境音など、さまざまな条件が関係します。
例えば、部屋の反響が大きい環境で録音した声は、後から完全に元へ戻すことが難しくなります。
また、エアコンやPCのファン、外からの車の音なども、録音されてしまえば後工程で処理する必要があります。
だからこそ、宅録では「防音」だけを見るのではなく、できるだけ整音しやすい音を録音するという考え方が重要になります。
ミキサーはきれいな音を作っているだけではない
ミキサーが音声を整えるとき、単純に「きれいな音にする」ことだけを考えているわけではありません。
その音声が、
- ナレーションなのか
- ボイスサンプルなのか
- アニメや映像作品のセリフなのか
- YouTubeなどの動画音声なのか
- 企業VPなのか
によっても、求められる聞こえ方は変わります。
そして、音声そのものを聴きながら、
ここは処理した方がいい
ここは残した方が自然
ここまでコンプレッサーを掛ける必要はない
このEQ処理をすると声の魅力が失われる
といった判断をします。
つまり、ミキサーの仕事はプラグインを操作することだけではありません。
音を聴き、目的に合わせて、どう聞かせるかを判断することも、ミキサーの重要な仕事です。
宅録する人がミキサーの仕事を理解すると、録音も変わる
ここまで説明してきたことを、宅録する側から考えてみましょう。
ノイズは後で消してもらえばいい
コンプレッサーを強く掛ければ、声が安定する
RXを強く掛ければ、きれいな音になる
という考え方から、
後工程でミキサーが扱いやすい音を録ろう
という考え方に変わるだけでも、録音への意識は変わってきます。
マイクとの距離を安定させる。
声量を意識する。
部屋の響きをできるだけ抑える。
エアコンなどの環境ノイズを確認する。
必要以上にプラグインを掛けない。
こうした基本的なことが、結果的に整音のしやすさにつながります。
そして、自分で整音するときにも、
処理した後の声は、本当に自然に聞こえているか?
と考えられるようになります。
宅録の整音は機械に任せるだけではない
RXをはじめとする音声処理ソフトは、宅録をする人にとって非常に便利なツールです。
しかし、便利なツールほど処理できることに意識が向きやすくなります。
大切なのは、処理できることと、処理した方がいいことは違うということです。
ノイズが取れた。
音量が揃った。
高域がきれいになった。
それだけで完成とは限りません。
最終的には、その声を実際に聴いて、
「声として自然か」
「言葉がきちんと伝わるか」
「その人らしい声が残っているか」
を判断する必要があります。
だからこそ、宅録する方には、機材やソフトの使い方だけではなく、その先にいるミキサーが何をしているのかも知ってほしいと思います。
きれいな音より、その人の声が伝わる音へ
宅録では、どうしてもきれいな音にしたいという気持ちが強くなります。
しかし、ボイスサンプルやナレーションで本当に大切なのは、単純に音がきれいなことだけではありません。
その人の声が自然に聞こえること。
言葉がきちんと伝わること。
声の表情やニュアンスが残っていること。
そして、録音した本人の技術がきちんと伝わること。
そのためには、余計な処理を加えるのではなく、必要な部分だけを適切に整えることが重要です。
整音とは、音を加工することではなく、音を聴かせるための作業でもある。
私はそう考えています。
宅録する方がミキサーの仕事を理解することは、自分の録音環境や機材を見直すきっかけにもなります。
そして何より、自分の声を必要以上に加工するのではなく、自分の声そのものをどう活かすかを考えることにつながります。
宅録音声の整音をプロに任せたい方へ
宅録したナレーションやボイスサンプルについて、
「ノイズを処理したけれど、これで自然なのか分からない」
「RXを使っているけれど、どこまで掛ければいいのか分からない」
「コンプレッサーやEQを使ったら、かえって声がおかしくなった気がする」
という場合は、第三者に音を聴いてもらうことも一つの方法です。
SEMでは、音声についてノイズなどの処理に加え、音量や音質の調整などを行う整音サービスを提供しています。
どこを、どの程度処理するのかを考えながら、声の自然さを残した整音を行います。
整音を依頼したい方はこちらをご覧ください。
また、ボイスサンプルについては、単に音をきれいにするだけではなく、声の聞こえ方や読み方そのものについて第三者から意見をもらいたいという方もいると思います。
SEMでは、声優志望者や宅録ナレーター向けに、ボイスサンプルの音声を聴き、読み方や表現、音声面について考えるボイスサンプル診断も行っています。
「自分のボイスサンプルは、第三者にはどう聞こえているのか?」
そんな疑問がある方はこちらをご覧ください。
宅録は、自分で録音できる便利な環境だからこそ、録音する人と音を仕上げる人の両方の視点を持つことが、より良い音声を作るための大きなヒントになります。
