
声優やナレーターを目指している方にとって、ボイスサンプルは自分の声や演技を知ってもらうための大切な音源です。
セリフ、ナレーション、キャラクターボイスなど、自分の得意な表現を収録して、オーディションや仕事の応募などに使用します。
ところが、音響の仕事をしている立場からボイスサンプルを聴いていると、
「声そのものは良いのに、音で損をしているな」
と感じる音源があります。
これは、演技が下手という話ではありません。
むしろ、本人が一生懸命に作ったボイスサンプルだからこそ、音声のちょっとした問題が、本来持っている声や表現力を隠してしまうことがあります。
今回は、テレビや映像作品の音声を扱ってきた音響の立場から、ボイスサンプルを聴くときにチェックしているポイントを解説します。
まず声ではなく録音された音を聴く
ボイスサンプルを作るとき、多くの人は「どう読めたか」「演技がどうだったか」を気にすると思います。
もちろん、それは重要です。
しかし、音響側が最初に確認するのは、それだけではありません。
実際に聴くのは、
- 声が自然に聞こえるか
- ノイズが気にならないか
- 部屋の反響が入っていないか
- 音量が安定しているか
- 声が加工されすぎていないか
- 長く聴いていて疲れないか
といった、録音された音そのものです。
どれだけ素晴らしい演技をしていても、録音状態が悪ければ、その演技を十分に伝えられません。
ボイスサンプルでは、まず自分の声をどう聞かせるかという音の部分も考える必要があります。
宅録で特に気になるのが部屋の音
宅録のボイスサンプルで意外と目立つのが、部屋の反響です。
本人は静かな部屋で録音しているつもりでも、壁や床、天井などで反射した音がマイクに入っています。
すると、声に少し響きが加わります。
一見すると声が綺麗に聞こえると感じることもありますが、音響側からすると、これは注意したいポイントです。
特にナレーションでは、声の輪郭がぼやけて聞こえることがあります。
セリフでも同じです。
声優のボイスサンプルの場合、キャラクターの声や演技を聴きたいのに、部屋の響きが加わることで、声そのものの質感が分かりにくくなることがあります。
宅録では静かな場所と響きの少ない場所は同じではありません。
ここは意外と見落とされやすいポイントです。
ノイズを消しすぎるのも問題になる
宅録では、エアコンの音やパソコンのファン、生活音など、さまざまなノイズが入ります。
そのため、ノイズ除去の処理を行うことがあります。
ただし、ここにも注意が必要です。
ノイズを消せば消すほど良い、とは限りません。
処理を強くしすぎると、声の自然な質感まで失われてしまうことがあります。
声の立ち上がりや息づかいが不自然になったり、音が人工的に聞こえたりすることもあります。
ノイズがない音と自然な声が聞こえる音は、必ずしも同じではありません。
ボイスサンプルでは、声の魅力を残したまま、必要な範囲でノイズを整理することが大切です。
コンプレッサーをかけすぎていないか
音量を揃えるために、コンプレッサーを使用することがあります。
適切に使えば、声を聴きやすくすることができます。
しかし、処理を強くしすぎると、声の抑揚が小さくなってしまいます。
特にナレーションでは、文章の意味や感情によって声の強弱があります。
セリフなら、さらに大きな声、小さな声、息を使った表現など、さまざまな変化があります。
そこを強く圧縮してしまうと、全部同じような音量で聞こえるという状態になることがあります。
音圧があることと、聴きやすいことは別です。
ボイスサンプルでは、声の表現を潰してまで音圧を上げる必要はありません。
EQで良い声を作りすぎていないか
EQを使って声を明るくしたり、低域を整理したりすることもあります。
ただし、これもやりすぎには注意が必要です。
例えば、高域を強く持ち上げると、声が明るくクリアになったように感じます。
しかし、場合によっては「サ行が強い」「耳に刺さる」という印象につながります。
反対に低域を足しすぎると、太く立派な声に聞こえる一方で、こもって聞こえることがあります。
音響の仕事では、その人の声を別の声に作り変えるのではなく、本来持っている声が自然に伝わる状態に整えることを考えます。
ボイスサンプルでも、この考え方は重要です。
セリフとナレーションでは聴き方が違う
ここで意識してほしいのが、セリフとナレーションでは、音響側が確認するポイントにも違いがあるということです。
ナレーションでは、言葉の明瞭度や声の安定感、文章全体の聞き取りやすさなどが重要になります。
一方、セリフでは、声の表情や息づかい、感情の変化なども含めて聴くことになります。
だからこそ、どちらも同じような音処理をすれば良いわけではありません。
綺麗な音にすることだけを目的にするのではなく、その声が何を表現しているのかを邪魔しない音にすることが大切です。
実は音量の差でも損をする
ボイスサンプルの中に、複数のセリフやナレーションを入れている場合は、音量の差にも注意が必要です。
一つ目は普通に聴けるのに、次の音源になった途端に急に小さくなる。
あるいは、次のサンプルだけ極端に大きい。
こうなると、聴く側は音量を何度も調整することになります。
これは意外とストレスになります。
特に複数のボイスサンプルをまとめて聴いてもらう場合は、それぞれの音量や音質が極端に違わないように整えておくことが重要です。
加工された良い声より現場で使いやすい声
ボイスサンプルを作るとき、できるだけ綺麗な声にしたいと思うのは自然なことです。
しかし、映像作品の現場では、その声をさらにMAやミックスの中で扱うことになります。
ナレーションならBGMや効果音と組み合わせます。
セリフなら他の出演者の声や映像、効果音などと一緒に仕上げていきます。
そのため、ボイスサンプルの段階で過度に加工された音よりも、声そのものの特徴が自然に分かる音のほうが、音響側としては判断しやすい場合があります。
これは加工してはいけないという意味ではありません。
重要なのは、加工の目的が自分を良く見せるためだけになっていないかということです。
自分で聴くと気づきにくい問題がある
ボイスサンプルで難しいのは、自分の声を自分で客観的に聴くことです。
自分では「いつもの声」に聞こえてしまうため、
「部屋の響きが少し気になる」
「サ行が強い」
「コンプレッサーが強すぎる」
「この部分だけ音量が大きい」
といった問題に気づきにくいことがあります。
さらに、何度も編集を繰り返していると、耳がその音に慣れてしまいます。
そこで重要になるのが、自分とは違う立場の人に聴いてもらうことです。
特に、声の演技だけではなく音としてどう聞こえているかを確認するなら、音響の視点を持った人にチェックしてもらう意味があります。
ボイスサンプルは「声+演技+音」で完成する
ボイスサンプルで大切なのは、声が良いことだけではありません。
演技が良いことだけでもありません。
そして、音質が良ければそれで十分ということでもありません。
声・演技・録音音質。
この3つが揃って初めて、自分の魅力をきちんと伝えられるボイスサンプルになります。
せっかく良い声を持っていて、素晴らしい演技をしていても、音声の問題でその魅力が伝わらなければ、非常にもったいないことです。
ボイスサンプルを作ったら、一度自分の演技だけではなく、一つの音源としてどう聞こえているかという視点でも聴いてみてください。
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そんな場合は、音響のプロによるボイスサンプル診断をご利用ください。
SEMでは、声優志望の方や宅録ナレーターの方を対象に、音響・MAの視点からボイスサンプルをチェックしています。
声そのものを評価するだけではなく、
- 録音状態
- ノイズ
- 部屋の響き
- 音量
- 音質
- 音声処理
- 実際に聴いたときの印象
など、音響側の視点から確認します。
「声は良いはずなのに、なぜかボイスサンプルに自信が持てない」
そんな方は、一度プロの音響から聴いてもらうことで、自分では気づかなかった改善点が見つかるかもしれません。
あなたの声の魅力を、音で損なわないために。
ボイスサンプルの音について気になる方は、SEMのボイスサンプル診断をご覧ください。
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